2006年08月06日

「美しい国へ」安倍晋三著/文春新書

政治家のことばって、意図を汲むのがほんとにむずかしいと思う。
特に最初から政治家の人のことばは。石原慎太郎のことばなんて、わかりやすい方だな。

とくにこの人の場合、最初っから、「政治家世界閾」に居っ放しで、そこから出るつもりなく、しゃべっているようなところがある。著書をよめば、多少は、日ごろの政治家ことばのみではない、あるいは、なにか「ああそういうことか」と感じるところがあるのではないかと思ったのだが・・・。

まず、ちょっとあきれたのが、自分の父(安倍晋太郎)と祖父(岸信介)への圧倒的な賛辞。というか全面肯定。

【祖父は、幼いころからわたしの目には、国の将来をどうすべきか、そればかり考えていた真摯な政治家としか映っていない。それどころか、世間のごうごうたる非難を向こうに回して、その泰然とした態度には、身内ながら誇らしく思うようになっていった。】p.24

この部分の前にあるのは日米安保条約の話題。

【わたしは、祖父に「アンポって、なあに」と聞いた。すると祖父が、
「安保条約というのは、日本をアメリカに守ってもらうための条約だ。なんでみんな反対するのかわからないよ」
そう答えたのをかすかに覚えている。】p.23

とのことですが、これはま、小学校に入る前の話なので。

【後年になって知ることになるが、1951年、サンフランシスコ講和条約といっしょに結ばれた日米安全保障条約には、アメリカが日本を守るというはっきりした防衛義務を定めた条項がなかった。事前協議の約束もない。このとき、アメリカとしては、日本に自由に基地がつくれることになっていたのだ。
 そればかりか、日本に内乱が起きたときは、米軍が出動できることになっていたり、アメリカ人が日本国内で犯罪をおかしても、日本には裁判権がないなど、独立国とは名ばかりの、いかにも隷属的な条約を結んでいたのだった。おまけに、条約の期限は、無期限になっていた。
 祖父はこのとき、この片務的な条約を対等にちかい条約にして、まず独立国家の要件を満たそうとしていたのである。いまから思えば、日米関係を強化しながら、日本の自立を実現するという、政治家として当時考えうる、きわめて現実的な対応であった。】p.23〜

ふーん。おぼえときますよ、そういう認識だってことは。

以下は、以上の引用箇所と同様、【第1章 わたしの原点】中にあるところなのですが。高校生のときの話です。

【「新条約には経済条項もあります。そこには日米間の経済協力がうたわれていますが、どう思いますか」
 すると、先生の顔色がサッと変わった。《岸信介の孫だから、安保の条文をきっと読んでいるに違いない。へたなことはいえないな》−そう思ったのか、不愉快な顔をして、話題をほかに変えてしまった。
・・・(中略)・・・
中身も吟味せずに、何かというと、革新とか反権力を叫ぶ人たちを、どこかうさんくさいなあ、と感じていたから、この先生のうろたえぶりは、わたしにとって決定的だった。】p.21

これは、『こちら側』も気をつけなければいけないことですね。
『こちら側』ってのは、安倍さんみたいに「完全安全政治家閾」にいない立場として、ってことです。
主流や保守に反対する人の中には、稚拙でお粗末な方法しかとってない場合も実際多かったと思う。
憲法九条を守る、にしても、やり方に工夫の余地はおおいにあったのでは。


***

次の箇所はなかなか興味深かった。

【たとえば世論と指導者との関係について先の大戦を例に考えてみると、あれは軍部の独走であったとのひと言でかたづけられることが多い。しかし、はたしてそうだろうか。
 たしかに軍部の独走は事実であり、もっとも大きな責任は時の指導者にある。だが、昭和十七、八年の新聞には「断固、戦うべし」という活字が躍っている。列強がアフリカ、アジアの植民地を既得権化するなか、マスコミを含め民意の多くは軍部を支持していたのではないか。】p.25

これは、【その時代に生きた国民の目で歴史を見直す】という項の中にある文。
つまり、「国民だって、戦争に賛成したでしょ?」ってことが言いたいのね。
こういう言い分に対しては、「昭和十七、八年ならすでに翼賛体制ができていて、政府がきめたことに反対できる雰囲気はなかった」とか言うだけでは、駄目なのかな、と最近思う。たしかに、日本のマスコミはレベル低いですから。日本人も付和雷同ですから。
ああでも、こういう言い方って、いかにも安倍さんが言いそうだな。
彼は、やっぱり、NHK番組事件のとき、「政治家として圧力を与えた」といえるとフタバは思ってます。
マスコミを批判することはかまわないと思うけど、この人の場合、最初っから、マスコミ報道に現れている一般人の声には、耳をかたむけるべき要素がある、というタテマエすらないんじゃないかなあ。

それというのも、やっぱり、【父、晋太郎のあとをついで、わたしが代議士になったのは】(p.37)なんぞとさらりと言えてしまう感覚からきてるんじゃないかなあ。

***

【第三章 ナショナリズムとはなにか】では、特攻隊のことも書いている。
なんかもう長々引用するのもいやなので印象だけ書いておくと、
安倍さんのおじいさまも、死を覚悟して安保をすすめたのかもしれないけど、反対派が家におしよせたときも国家警察が保護してくれたわけだし、戦犯として指名されたときも、偏頗な裁判かもしれないけど、一応裁判はうけることになっていたわけだし、特攻隊に配属され志願する以外なく志願してしまえばもうよほどのことがなければ死ぬしかなかった人の思いを、ほかでもない「政治家一家」の人にこのように【たしかに自分のいのちは大切なものである。しかし、ときにはそれをなげうっても守るべき価値が存在するのだ、ということを考えたことがあるのだろうか】(p.103)なんぞといってほしくないな。

***

国家と国民については、こんな感じ。

【国民がパスポートをもつことによって国家の保護を受けられるということは、裏を返せば、個々人にも、応分の義務が生じるということでもある。
 たとえば、タックス・ペイヤーとしての義務を果たす。一票の権利を行使する。自分の住む町を含めた公共に奉仕する−個々人がそうした役割を担わなければ、国家というものは成り立っていかない。
 公害訴訟など、過去の国の失政を追及する国家賠償請求訴訟において、原告が勝利すると、マスコミは「国に勝った」と喝采することが多い。しかし、その賠償費用は国民の税金から支払われるのであって、国家という別の財布から出てくるわけではない。だからこそ、その責任者は被害者への責任だけでなく、納税者である国民にたいする責任がきびしく問われるのである。国家と国民は対立関係にあるのではなく、相関関係にある、というべきだろう。】

日本人はお金のこといわれると弱いですからね。
でもここ、ちょっと意図がわからないな。
賠償すべき被害をうけた人へは当然賠償すべきだと思うし、それが失政ゆえなら、その他国民一般は、その失政を責めるべき。失政の担当者たる国家が、被害者・納税者両方に対して責任を問われるのはあたりまえ。
マスコミがなんていえば納得するのかしらん。
それを具体的に知りたいですね。【相関関係】って、ちょっとヘンじゃない?

***

後半は、まあ、言えば、政策面についての持論。
年金は、よい制度であり破綻しない、ということをさかんに述べているようです。
日中関係については、【政教分離の原則で】だそうです。
少子国家については、出会いが少ないという男女のために、国家があとおしすることも検討の余地ありだそうです。
まあほかにもいろいろあるんですけど、論じるというのには合わないくらいの、駆け足的にいろんなことが書いてある気が。
しょせん新書なので、しかたないんですけど。

***

で、題名の「美しい国へ」についてですが、これは、「美しい国へ向けて努力していこう」なのか「美しい国へささげるボクの決意」なのか、どういう意図なのかよくわからなかった。
まあその両方かな。

最後のページで

【わたしたちの国日本は、美しい自然に恵まれた、長い歴史と独自の文化をもつ国だ。】

とある。
この美しい自然、というのは、もちろんあるていど「保護政策」などあるのは知ってるけど、こういうことを紋切り型にいう人ほど、実際問題美しい自然の日本をつづけていくのにどうする、という話をしない。
この本でもまったく触れられてない。林業の苦境とかについてどう思ってるのかしらん。

***

この本によって、支持者って増えるのかな。
増えるかもね。
日ごろ見聞きしている安倍さんの発言からの印象が、この本を読んでとくに変わるということはないような気がする。もともとぼんやり支持してた人は、さらにぼんやり、はあなるほど、と思うかもしれないけど。
フタバ的には、「人間はまちがえる。権力の座にいる者は、一般人以上にそのことを意識すべきだ。」と思ってるのですけど、そういう視点が皆無(タテマエ的にも、とってつけたようにすら、みあたらなかった)なことが気になりました。
posted by フタバ at 08:38 | 東京 🌁 | Comment(2) | TrackBack(2) | ニュース本ニッキ(本の感想)
この記事へのコメント
こんにちは。
blogも模様替えなさって夏らしい涼しさを感じます。

ところで、安倍氏の「美しい国へ」を読まれたのですね。
私は書店で手には取ってみたけれど、どうにも駄目で貴重なお小遣い(笑)から購入する気にはなれませんでした。

個人的に政治が世襲体制になりつつある現状に危機感を抱いているので。
権力の行使に無感覚になっているのでは…と感じます。
当然というか…ね。
Posted by たろすけ at 2006年08月06日 15:39
コメントありがとう。
安倍さんにはほんとに、「自負」しかなくて、「自戒」がないんですよ。おどろくほどに。
で、安倍さんのような権力のない人は、もう自分が権力側にたいして全くコミットできないと感じてるんじゃないかな・・・。

個人的に、金井美恵子さんに、この本に突っ込んでほしいです。(笑)
Posted by フタバ at 2006年08月06日 20:44
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